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女性泌尿器科百科(8)骨盤臓器脱の手術療法その1

骨盤臓器脱の根治療法は手術

骨盤臓器脱は骨盤底のヘルニアと考えられ、その根本的な治療法は外科的にヘルニアを修復すること以外にはありません。しかし骨盤臓器脱は脱出している部分だけの問題ではなく、骨盤内全体の力のバランスがくずれて、その結果ある部分が脱出してきていると考えられ、出てきている部分だけを修復しても完全に治らないこともあるのです。

手術療法の考え方と従来の手術法

まずは手術療法の考え方と手術法の変遷についてお話ししましょう。

骨盤臓器脱の損傷している部分だけを手術で修復するという考え方に基づく手術を部分修復手術(site specific operation)と呼びます。

従来は部分修復手術を組み合わせて骨盤臓器脱を治療していました。例えば子宮脱と膀胱瘤がある症例には、子宮を摘出し、前後腟壁を縫い縮めるといった手術が行うといった組み合わせです。

マンチェスター手術 子宮脱や子宮頚管延長症の場合に行います。延長している子宮頚管を一部切除し、子宮を支えている仙骨子宮靱帯が短くなるように縫い縮めます。

腟式子宮全摘出術 子宮脱や子宮頚管延長症のある場合に腟から子宮を摘出する手術です。おなかを切らずにすべての操作を腟から行います。現在でも子宮体がんや頸がんの疑いのある子宮脱の患者さんにはこの術式を行ったのち、メッシュを用いた骨盤臓器脱の手術を追加することがあります。

ル・フォール手術 子宮脱、膀胱瘤、直腸瘤の症例に行う腟を閉鎖する手術です。術式が単純で体に負担があまりかからないことから、高齢者やリスクの高い患者さんに行われることが多い術式です。術後には性行為が行えなくなることが欠点です。また不完全なル・フォール手術では閉鎖された腟が再度全体として下垂、脱出してくることがあり、私は、そうした症例に再度腟を解放した後、メッシュを用いたTVM手術を施行した経験が少なからずあります。

腟壁形成術 膀胱瘤や直腸瘤の症例で、緩んだ腟壁をはがして、その下の膀胱や直腸を押し込むように一部余剰の腟壁を切除して縫い縮める方法です。このときにメッシュを挟むように入れる方法も行われてきました。弱った腟の壁を修復に使用するため、また緩んできて再発することが多く、同じ手術を繰り返すと腟が浅くなったり狭くなったりするのも欠点です。

Paravaginal repair 膀胱瘤に対する手術法の一つで、腟の前壁の筋膜の側方が破れたり外れたりしている時に行われ、腟から行う方法、おなかを開いて行う方法、腹腔鏡を用いて行う方法などがあります。

仙棘靱帯固定法 腟を持ち上げるための手術法です。骨盤内の背中側にあるしっかりした仙棘靱帯という靱帯に腟の上端を縫い付ける手術で一時非常に盛んに行われました。腟の方向が左右どちらかに傾く傾向があることや、そのために骨盤内の圧力が前腟壁にかかりやすくなり、膀胱瘤が出現しやすくなるという欠点があります。

マッコール氏手術 腟を持ち上げるための手術法です。骨盤の後方から子宮を支えている仙骨子宮靱帯に腟の上端を縫い付ける方法で、子宮全摘出術などと組み合わせて行われます。

インモン法(腸骨尾骨筋膜固定術)腟を持ち上げるための手術法です。肛門挙筋の一つである腸骨尾骨筋膜の筋膜に、腟の上端を左右ともに縫い付ける方法で、図の赤い部分がその縫い付ける部分です。

ここまでとりあげた術式はすべて部分修復による手術法です。これらの手術には骨盤内のバランスが変わって他の部分の障害が出現することが少なくなかった。

これに対して、骨盤底全体を一括して修復する全体修復(total repair)という考え方による術式の一つとして、次の章でtension-free vaginal mesh (TVM)手術を紹介しましょう。

Posted by 2011/05/08

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