女性泌尿器科(ウロギネコロジー)外来へ行こう
●骨盤底とインテグラル理論
骨盤底と聞いても、一般にはなじみのない言葉ですが、女性泌尿器科のキーワードの一つなので、簡単にお話しておきます。
骨盤底筋は前方の恥骨と後方の尾骨との間にあるハンモック状の筋肉群を言います。元来、四つ足歩行していた頃には尻尾を振ったりするのに使われていた筋肉群ですが、人間が二足歩行を始めたことから骨盤の底に腹部臓器の重みがかかるようになり、それを支える役目を果たすことになった筋肉群です。
これらの筋肉群や靱帯などの支持組織が協力して、膀胱、子宮、直腸など骨盤内臓器を支えるだけでなく、種々の臓器や神経、筋肉の高度な協調が必要な蓄尿や排尿、排便という機能に重要な役割を果たしています。
インテグラル理論によると、膣はその中心にあり前後をそれぞれ恥骨尿道靱帯と仙骨子宮靱帯によってつられたハンモックとして尿道を支えています。
この膣ハンモックを1.前上方に引っ張る筋肉群(恥骨尾骨筋の筋肉部分)、2.下方に引っ張る筋肉群(肛門縦走筋)、3.後方に引っ張る筋肉群(肛挙筋プレート)の三つの筋肉群があり、バランスをとっています(図1)。
尿漏れや骨盤臓器脱、尿意切迫感など女性の下部尿路症状はこのハンモックの障害(骨盤底の緩み)によって起きるというインテグラル理論に基づいて最近の尿失禁や骨盤臓器脱の治療が考えられています。女性泌尿器科の疾患の多くはこの骨盤底の緩みや断裂といった障害が原因となっていると考えられています。
骨盤底はなぜ緩むのか
- 1) 妊娠、出産(最も大きな原因と言われています)
- 2) 肥満による体重の負荷
- 3) 更年期におこるエストロゲンの減少
- 4) 加齢による筋肉の脆弱化 などがあげられます。
骨盤底の障害部位と疾患や症状
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1) 前方領域(恥骨尿道靱帯や尿道を吊っている膣の前壁)に障害
⇒尿失禁・便失禁が現れ、過活動膀胱の症状が起こる
⇒障害が進むと尿道瘤(尿道が脱出) -
2) 中央領域(膣の前壁)に障害
⇒膀胱の支持が傷害され、排尿困難、頻尿、過活動膀胱の症状が現れ
⇒障害が進むと膀胱瘤(膀胱が膣から脱出)する膀胱瘤 -
3) 後方領域(仙骨子宮靱帯や膣の後壁)に障害
⇒排尿障害、過活動膀胱、下腹部痛などの症状が現れ
⇒子宮脱、直腸脱、小腸脱などの骨盤臓器脱
インテグラル理論によると、このように多くの女性泌尿器科の疾患が骨盤底の靱帯や筋肉の障害によっておきるとされており、その治療はこれら骨盤底のハンモックを修復するのが主眼となります。