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女性泌尿器科百科(7)骨盤臓器脱の治療その1
骨盤臓器脱の治療
骨盤臓器脱とは骨盤内の臓器を支えている骨盤底の弱い部分から臓器が脱出してくるヘルニアの一種と考えられるとお話をしました。ですからその治療は骨盤の底の構造を修復することが必要となります。
ここでは、まず骨盤底の構造と、その各部分が障害されるとどのような症状が現れるかについてのべたインテグラル理論について解説します。少しわかりにくい理論ですが要点を理解することで、症状への理解が深まると考えます。
次に患者さんの年齢と治療法の選択についてお話しし、予防法と保存的治療法について述べます。最後に根本的治療法としての手術療法について解説します。
(1) 骨盤底の構造とインテグラル理論
骨盤底筋は前方の恥骨と後方の尾骨との間にあるハンモック状の筋肉群を言います。もともと、人類の先祖が二足直立歩行をしていなかったころには尻尾を振ったりするために使われていた筋肉群です。これが二足直立歩行を始めたことから骨盤底に腹部臓器の重みがかかるようになり、それを支える役目を果たすことになったのです。これらの筋肉群と靱帯などの支持組織が協力して、膀胱、子宮、直腸など骨盤内臓器を支えるだけでなく、種々の臓器や神経、筋肉の高度な協調が必要とされる蓄尿や排尿、排便という機能に重要な役割を果たしています。インテグラル理論に基づく骨盤底を支えるメカニズムを図に示します。インテグラル理論によると、腟を中心にその前方の恥骨尿道靱帯と後方の仙骨子宮靱帯とで吊られたハンモックが尿道を支えています。
この理論では骨盤底の障害部位により疾患や症状に違いがあるとされています。
前方領域、つまり恥骨尿道靱帯や尿道を吊っている腟の前壁に障害があると、尿失禁や便失禁が現れ、過活動膀胱の症状がおこります。障害が進むと尿道が脱出する尿道瘤になります。
中央領域、すなわち腟の前壁に障害がおこると膀胱の支持が障害され、排尿困難、頻尿、過活動膀胱の症状が現れ、障害が進むと膀胱が腟から脱出する膀胱瘤になります。
後方領域、すなわち仙骨子宮靱帯や腟の後壁に障害が起こると、排尿障害、過活動膀胱、下腹部痛などの症状が現れ、子宮脱、直腸瘤、小腸瘤などが脱出してきます。
(2)年齢と治療法:私の前任地の大阪中央病院でのデータになりますが、骨盤臓器脱患者さんの年齢分布の図を示します。60歳代にピークがあり次いで70歳代、50歳代となります。年齢の高いほうでは80歳代の方も散見されますし、低い方では40歳代、30歳代の方もおられます。治療法の選択まず患者さんのQOL(生活の質)の程度と膀胱の機能が損なわれているかどうかによって決定します。ある程度臓器が脱出していても患者さんが困っておられなくて、排尿後に残尿がなければ保存的に経過を見るだけで良い場合があります。
Stage3、4の重度の骨盤臓器脱であってQOLも悪い場合には年齢に関わらず手術による根治が可能です。後述しますが、メッシュを用いた体に優しいTVM手術は体の負担も少ないためご高齢の患者さんにも適応があります。
(3) 骨盤臓器脱の予防と保存的治療法
骨盤臓器脱の予防には出産後からの骨盤底のケアが中心になります。
出産直後には重いものを持たない、長時間の立ち仕事をしない、体重を増やさないなどの気遣いと産褥体操として骨盤底筋のトレーニングが重要です。
更年期以後には女性ホルモンの減少、基礎代謝の低下による体重増加などによる骨盤底の弱まりが進みます。また便秘傾向による排便時のいきみが骨盤底を障害します。体重のコントロール、排便コントロール、重いものを持たない生活スタイルの確立などを心がけましょう。朝晩に骨盤底筋体操を日課にするなど日頃のちょっとした努力が骨盤臓器脱の予防になります。
保存的治療法としてはごく初期には骨盤底筋体操で進行を押さえることが可能です。さらにペッサリーリングによる補正、サポート下着であるフェミクッションによる脱出の防止などがあげられます。
1) ペッサリーリングの自己着脱法
ペッサリーリングにはいろいろな材質のもの、形態のものが使用されていますが、現在国内で使用されているものはエボナイト製の硬い製品とシリコン製の比較的柔らかいウォーレスリングの2種類です。
ペッサリーは異物なので腟内に挿入することで、必ず腟壁に炎症が起こります。帯下が増え、腟壁の炎症が続けばびらんが生じます。エボナイト製のリングは腟壁の中に埋まり込むことがあり、そうなれば切断して取り出す必要があります。
ペッサリーリングを治療に使用する場合、朝起床後自分で挿入し、夜就寝前に取り出す、自己着脱という使用法を会得すれば、より安全で有効な治療法と言えます。
自己脱着は決して難しくないので、女性クリニックや婦人科に指導してもらえるか問い合わせてみると良いでしょう。私が外来診察をしている梅田ガーデンシティ女性クリニックでは丁寧に指導しているが、ほとんどの方が会得されて帰られます。
2) サポート下着、フェミクッション
フェミクッションはガードル型の下着にシリコン製の楕円形のクッションを装着し脱出しないように臓器を支えるようになっています。
自分で脱出した臓器を還納できることが条件になりますが、適切な使用により、QOLは著明に改善し、骨盤臓器脱の進行を遅らせることも可能です。
フェミクッションの詳細については稿をあらためて解説します。
Posted by 2011/05/04