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有元利夫展
私の楽しみの一つに美術展巡りがある。
学生時代には美術部に在籍して作品を作っていたこともあり、二紀会だったかの研究所に通ってまじめに裸婦のデッサンにはげんでいたこともある。芸術には憧れを超えた身近な切実さを感じていたとも言える。大学の教養課程から学部に進学してからは作品にじっくり向き合う濃厚な時間を持つことは許されなかったし、それ以後医師のキャリアの中では作品を作ることをずっと先延ばしにして30年以上経ってしまった。そのうち時間がとれたら絵も描いて、楽しい作品もというモチベーションは衰えていないつもりであるが。自分では作品をものすることはできなくても、古今の作家の仕事そのものに触れることのできる展覧会には時間を割いて訪れる価値があると思って足しげく通っている。
前置きが長くなったが、先日、東京都庭園美術館で見た「没後25年 有元利夫展 天空の音楽」という展覧会について紹介しよう。
東京都庭園美術館:「東京都庭園美術館は朝香宮邸(朝香宮殿下は久邇宮家第8王子、妃殿下は明治天皇第8皇女)として昭和8年 (1933年)に建てられた建物を、そのまま美術館として公開したものです。戦後の一時期、外務大臣・首相公邸、国の迎賓館などとして使われてきましたが、建設から半世紀後の昭和58年(1983年)10月 1日、美術館として新しく生まれかわりました。美術館は広大な緑溢れる庭園に囲まれ、自然と建物と美術作品があわせて楽しめる環境に恵まれ、そこに庭園美術館の名も由来しています。」
有元利夫という画家をよく知っていた訳ではないのだが、この人の絵だったらこの美術館だろうと思って東京に行ったついでに見に行った。人がいないほどではないが、絵の前でしばらくたたずんでいられる空間がある。その前日に行った新美術館のオルセー美術館展が人の洪水だったことを思うとこの絵たちは幸せだなと思った。38歳の若さで亡くなったこの人の作品はどれも魅力的だ。風化した絵肌、一人だけ登場する首の太い女性(女神)は音楽を奏でる。
花びらが舞い女神は浮揚する。彼は「嬉しい時、幸福感でいっぱいな時、それを表して「天にも昇ろ気持」と言う。実は僕はこのいいまわしが大好きなのです。いわゆる知的エリート風の人たちは、こういう表現を通俗だ陳腐だとバカにしがちですが、こういうのは意外にバカにしてはいけないと思う。」と語っているが不思議な空間が魅力的である。
彼はまた音楽を好んだ画家でもあったようで特にバロック音楽の様式美を絶賛している。「ビバルディの「四季」は好きな曲の一つだ。この曲の魅力は富士山に例えられる。僕は富士山を見ると、何だかとても照れくさく、山中湖の湖面にうつると、とても正視できないなと感じる。だがその俗性をとりさってきちんとみてみると、やっぱりいいなと思えてしまうから不思議だ。「四季」の魅力もちょうど同じようなたぐいのものではないだろうか。」押し付けがましくないが普遍的なものということだろうか。彼自身も作曲もしリコーダーを奏でたらしい。美術館の特設売り場で彼の曲が流れCDも販売されていた。
美術館の建物とも見事にマッチしたすばらしい展示だった。9月5日まで開催されているので機会があれば是非訪れてほしい展覧会である。文責 竹山
Posted by 2010/08/16