尿失禁・骨盤臓器脱などの女性骨盤底疾患を主な対象とした女性のためのサイトです。

骨盤臓器脱/尿失禁(尿漏れ)の手術を受ける人のために

尿失禁の手術 TVT、TOT手術
  1. どのような症状があれば手術を受ければよいのでしょうか?
    まず尿失禁は命に関わる病気ではありません。ただ、生活の質(QOL)を多いに損なう病気なので、QOLの改善を目的として治療を行います。QOLはそれぞれの患者さんで異なり、その人のライフスタイルと深く関連しています。 普段の生活では尿漏れがないが登山やスポーツの際に漏れる人では、登山やスポーツをしなければ漏れないのですが、そういった活動が出来ないことがその人のQOLを損なっていれば手術を勧めるというようなことです。
    ですから尿漏れがあっても生活に支障がなければ治療を受ける必要はないとも言えます。ただし排尿困難があって尿がちょろちょろと漏れてくるような溢流性尿失禁の場合などには神経疾患などの基礎疾患がある場合があり、放置すれば膀胱機能、腎機能を低下させることがあるので、専門医による診断だけは受けておかれるとよいでしょう。
  2. TVT手術とTOT手術(図1)、尿失禁の手術法はどの方式がよいのでしょうか? 
    腹圧性尿失禁に対する手術はTVT手術(図2)の出現以来画期的に進化しました。低侵襲かつ優れた成績により多くの患者さんがその恩恵に浴しました。ただし、この手術には盲目的操作を必要とするステップがあるので、経験の浅い術者が行うと膀胱を穿刺することもあり、ごくまれではありますが腸管や大きな血管を損傷して重篤となるケースも報告されています。  そのためより安全な術式としてTOT手術が考案されました。この方法では膀胱や腸管などを損傷するリスクがきわめて少なく、成績もTVT手術と比べても遜色のない手術と考えられています。そのため世界的にはTOT手術が主流となっており、国内でも尿失禁を専門とする医師たちはほとんどがTOT手術を主な術式としているようです。  専門家の間では、内尿道括約筋不全の症例に対してはTVT手術を選択する方が多いようです。
    図1 TVTとTOT
    図1 TVTとTOT

    図2 Ulmstenの提唱したTVT原法
    図2 Ulmstenの提唱したTVT原法

  3. 尿失禁なら、どんなものでも手術で直るのでしょうか?
    尿失禁の項で述べたように、手術で直るのは腹圧性尿失禁および腹圧性尿失禁の要素が主である混合型尿失禁に限られます。切迫性尿失禁(尿漏れのある過活動膀胱)に対してこの手術の効果は期待できません。それどころか悪化する場合もあるので要注意です。
  4. 手術はどこで受けても同じ成績がえられるのでしょうか?
    確かにTVT手術もTOT手術も単純な術式で、尿道の下にメッシュテープを留置するだけですが、予想以上に経験によって結果に差が出る手術でもあります。メッシュテープの適正な張力の範囲を超えて張ると排尿困難となります。 張力が緩すぎると尿失禁が残ります。手術中に患者さんに何度も咳をしてもらい、咳が止まるところでテープを留置する術中咳テストも意外に難しく、適正だと思っていてもテープのプラスチックカバーを除去する際に締めすぎたりするので、私は自分の経験で張力を決めています。翌日、自排尿してもらい排尿困難があれば、すぐにもう一度傷を開いてテープを緩め、腹圧性尿失禁が残っていればテープを少し縫い縮めるという処置を行っています。  いずれにせよ、この手術の成績は術者の熟練度によって多いに変わってくるということです。
  5. 入院期間はどのくらいでしょうか? 保険適応はありますか? 費用はいくらくらいかかりますか?
    入院期間は5泊6日か6泊7日としています。施設によっては1泊2日くらいの入院期間で行っているところもありますが、術後1週間以内に過度の腹圧をかけると挿入したメッシュテープがずれる可能性があるので、少し長めに入院して創部の安定をはかった方がよいと考えています。保険は適用され、私のクリニックでは3割負担で11—12万円くらいかかります。
  6. 私の手術の場合(第一東和会病院 女性泌尿器科・ウロギネコロジーセンター&泉北藤井病院)  まず手術の適応があるかどうか、手術をすれば直るのかどうかを詳しく調べます。膀胱と尿道の形態と動きを造影検査で調べ、膀胱の蓄尿と排尿の機能を調べます。1時間パッドテストで実際にどの程度の尿が漏れているのかを調べます。そうして腹圧性尿失禁が主で、尿排出障害がない場合にはTOT手術を第一選択として準備を進めます。尿もれの量が多い腹圧性尿失禁の場合にはTVTを選択する場合があります。  私のTVT手術はより安全な「腹部からのアプローチによるTVT手術法」(図3)を用いています。この方法により、約300例の症例で一例も膀胱や腸管を損傷することなくTVT手術を行って来ました。
    図3 腹部からのアプローチによるTVT手術
    図3 腹部からのアプローチによるTVT手術

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